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∽*∽*∽*∽*∽ ショート・ストーリー ∽*∽*∽*∽*∽


おでんの香り

「今日も帰りが遅くなってしまったな…」
 私はそう呟きながら、木枯らしが吹きすさぶ中、家路へと急いだ。
「今日も、おでんにするか…」
 私は寒い夜の街に明るく浮かぶ、行き付けのコンビニエンス・ストアーへと入った。
 人影もまばらな店内で、私はレジの隣にある銀色の四角いおでん鍋の前に向かった。
 だが次の瞬間、私は、おでん鍋の前で立ちすくんでしまった。
「あれが、無い!!」
 私はショックで、一瞬、我を忘れてしまった。
 楽しみにしていた好物の「はんぺん」が無かったのである。
 私は、暖かな湯気に包まれたおでん鍋の中を何度も見回したが、やはり、あの白く柔らかい「はんぺん」の姿はどこにも無かった。
 とその時、レジにいた店員が私に声を掛けてきた。
「探し物は、これかしら?」
 レジにいたのは、最近良く見かける若く美しい女性であった。
 彼女は、爽やかな笑顔をたたえながら、既にお持ち帰り用の容器に入った「はんぺん」を私に差し出した。
「今日も来るかと思って、とっておいたわ」
 私は、感激のあまり、彼女を熱く見つめた。
 彼女も少し恥ずかしそうに、私を見つめ返した。
 温かなおでんの湯気が、私たちを包んでいった。
 冷え切っていた私の身体は、芯から熱くなっていた。

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