∽*∽*∽*∽*∽ ショート・ストーリー ∽*∽*∽*∽*∽
「それじゃ、また電話するね」 彼女は笑顔でそう言うと、手を振りながら、自宅の玄関の中へと消えていった。 今日は彼女とのはじめてのデートだと言うのに、何てあっけない終わり方であろう。 ましてや、今日はバレンタイン・デーである。 もしかしたら、彼女からバレンタイン・プレゼントをもらえるのではないかと、淡い期待を抱いていた私は、ショックを隠し切れなかった。 「彼女とは脈が無いのかな…」 寒空の下、私はコートのポケットに両手を突っ込むと、失意のうちに、一人寂しく家路へと向かった。 とその時、私はコートのポケットの中に、何か角張ったものが入っているのに気がついた。 私は、ゆっくりとその角張ったものを取り出した。 するとそれは、リボンに包まれた小さな箱であった。 「もしや!」 私は、はやる気持ちを押さえて、リボンに挟まれていたメモを広げて読んだ。 一瞬にして、私の胸は高鳴った。 それは彼女からのバレンタイン・プレゼントであった。 私は、目の前が急に明るくなったような感激を覚えた。 「心憎い演出をするな…」 苦笑いする私の脳裏に、彼女の爽やかな笑顔がよぎった。 夜空には、宝石を散りばめたような美しい満天の星空が広がっていた。 |
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