∽*∽*∽*∽*∽ ショート・ストーリー ∽*∽*∽*∽*∽
忙しかった仕事もようやく終わり、私は一人、寒空の下を家路へと向かった。 今日はバレンタイン・デーだと言うのに、デートの約束も無い私は、夕食を求め、夜の街にぽつりと浮かぶ、行き付けのコンビニエンス・ストアーへと入った。 人影もまばらな店内で、私は適当にお弁当を選ぶと、レジへと出した。 「いらっしゃいませ」 レジにいたのは、最近良く見かける若い女性であった。 爽やかな笑顔をたたえた彼女は、清楚で髪の長い美しい女性であった。 「お弁当は、温めますか?」 「ええ、お願いします」 「よろしかったら、こちらもどうぞ…」 彼女はそう言うと、リボンに包まれた小さな箱を差し出した。 「サービスですか?」 と私が尋ねると、彼女は少し恥ずかしそうに、 「…いいえ…」 と言って頬を赤らめた。 彼女が差し出した小さな箱には、小さなメモが付いていた。私はそのメモを静かに開いた。 するとそこには、彼女の名前と電話番号が記されてあった。 一瞬にして、私の胸は高鳴った。 私は、再び彼女を見つめた。 彼女は、恥ずかしそうに微笑んだ。 「後で必ず、お電話します」 私がそう言うと、彼女は少し恥ずかしそうに、うなずいた。 私は温かいお弁当と予期せぬプレゼントを抱えながら、コンビニエンス・ストアーを後にした。 夜空には、宝石を散りばめたような美しい満天の星空が広がっていた。 |
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