∽*∽*∽*∽*∽ ショート・ストーリー ∽*∽*∽*∽*∽
黄色いイチョウの葉が、静かに舞う日曜日の穏やかな昼下がり、私は二階のテラスにあるリクライニング・チェアーに深く腰掛けながら、愛読書である冒険小説を読みふけっていた。 秋の穏やかな陽だまりの中で読む本は、なんて気持ち良いのだろう。私はいつのまにか、心地よい眠りへと入っていた。 暫くすると、私はふと、目を覚ました。私の顔に何かが覆い被さったのである。 静かに目を開けると、それは白いレースの付いた女性用の帽子であった。 悪戯な秋風が、女性の帽子を吹き飛ばしたのであろう。 とその時、テラスの下の道から、若い女性の声がした。 「すいません。帽子を取って頂けませんか?」 私はとっさに、顔に乗った帽子を取ると、急いでテラスの下を見下ろした。 すると、テラスの下の道には、美しい女性がこちらを見上げて立っていた。 彼女の美しさと、優しげな眼差しは、一瞬にして私のまぶたに焼きついた。 「待っていて下さい。今、持っていきますから」 私はテラスから彼女にそう告げると、白いレースの付いた帽子を手にしながら、軽やかに階段を駆け下りていった。 ときめきは、爽やかな秋の風に乗ってやって来た。 |
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